タイの近代的小売(モダントレード)業界/前編

2019.02.18
  • 業界トピックス
  • タイ

小売市場の業績

タイの小売市場は2015年に回復傾向となった。家計支出の増加、政府の景気刺激策、政情の安定化、訪タイ外国人(インバウンド)数の増加が小売市場成長要因として貢献した。

  • 卸売・小売業は、製造業に次ぐタイ経済第二の産業であり、2016年の市場規模は2兆4,500億バーツ(790億米ドル)で、タイのGDPの約16% (1)を占める。
  • 卸売・小売業の成長は2015年から好調になった。主な理由は、政治経済の状況が改善したことにある。2016年以降家計債務の負担が軽減したことも成長の主な理由の一つとみられる。
  • 小売売上高指数は2016年-2017年に大きく改善した。
  1. 非耐久消費財の売上高指数は家計債務の負担軽減により2016年以降回復している。
  2. 百貨店・スーパー売上高指数は、政府の景気刺激策、消費意欲の改善、および観光収入の増加により2016年に急速に成長した。
  3. 2015年以降、オンラインショッピングは劇的な成長を見せた。
  4. 自動車販売台数指数は、ファーストカープログラム制度で購入した車の譲渡制限期間満了がもたらした買替需要により、2017年第1四半期以降から回復した。
  5. 耐久消費財は2017年第3四半期に回復の兆しをみせている。

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注: (1) タイのGDPを直近の市場価格で計算

 

小売市場の見通し

タイ小売業協会(TRA)は、タイ小売業の今後の成長率について、2018年に3.8-4.0%、2019年に4.5とさらなる成長を予測している。一方、タイショッピングセンター協会(TSCA)は、さらに強気で、2018年に4.0-5.0に達すると予測している。

今後数年の小売業成長を牽引する要因

  • 世界およびタイの経済状況の今後のさらなる回復(輸出や民間投資の増加など)により消費意欲と消費環境が改善することが予想される。
  • 公共交通インフラ計画(バンコク首都圏を網羅する大量輸送交通ルートの整備から内陸部まで延伸する高速鉄道を含む)が観光業の拡大や沿線の都市部の拡大、しいては近代小売業の潜在市場を創出をもたらすだろう。
  • バンコクおよび主要都市で、ショッピングモール(アイコンサイアムショッピングセンター、セントラル・フェスティバル・プーケットモール、ゲートウェイ・バンスー・モール、ターミナル21パタヤモール、Blue Pearlなど)の開業が予定されている。
  • インバウンド数の好調な増加とその消費・買物支出の増加傾向
  1. インバウンドは2011年の1,900万人から2017年には3,500万人になり、年平均成長率11%で成長した。タイ観光庁(TAT)は、タイへの訪問客数が前年比5%増の3,400万-3,500万人になると予測している。
  2. 海外からの旅行客の買物支出は増加傾向にあり(右下グラフ参照)総旅行支出に占める買物支出の割合は、2013年の23.7%から2016年には24.4%に増加している。訪タイ外国旅行者のうち最も数が多い中国人は、旅行予算の40%以上をショッピングに充てている(2)

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注: (2) タイ観光庁データをもとにCBREリサーチ社調べ(2017年10月)

 

 

小売業は、前述の成長要因を除くと、業界の多方面に影響するいくつかの課題に直面する可能性がある。一部の課題は多くの拡大機会をもたらし得るが、一部の課題は小売企業に対して、環境への適応や競争力強化のために事業戦略の調整を迫るような圧力を与える可能性もある。

  • デジタル化の影響の拡大
  1. 携帯端末やソーシャルメディアが普及するにつれて、消費者の行動に、実店舗からネット(オンラインショッピング、電子決済、ネットによる製品・価格の検索)へのシフトが起きている。
  2. アリババ、JD(中国)、11Street(韓国)など大手でグローバルのEC(eコマース)マーケットプレイス企業の参入は、各ブランドや製造業の直営オンラインショッピングサイトと同じく、業界の競争をより激化させている。
  • 消費者のライフスタイルや需要の変化
  1. 拡大する中間所得層は、購買力の向上に伴って引き続き近代的な小売市場を牽引する。
  2. 学歴を向上させること、海外製品に触れる機会を増やすことは、洗練度の高い製品やユニークな商品への需要の変化をもたらす上での重要な要因である。
  3. 都市化が進む中で、世帯人口の減少、多忙なライフスタイルが消費や購買動向に影響力を持つ。都市部の人々の間で半調理品や料理済食品などの人気が上昇している。こうした購買行動については、支出額は少なくなっているものの頻度は上がっている。
  • 人口の動向
  1. ミレニアル(現在20~30代のデジタルネイティブの世代)はタイで最大の消費者層であり、今後小売市場の動向に大きな影響力を持つだろう。この世代はデジタル技術に精通し、情報や知識に敏感で、ソーシャルネットワークを大切にし、選択眼があり、金融の知識を身に付けている(3)
  2. 社会の高齢化は、製品・サービスの提供、デザイン、設備など様々な面で小売市場に変化をもたらすだろう。

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注: (3) Results from SCB経済情報センターの2014年消費者調査結果より

 

3-1  競争環境: ショッピングモール(4) と百貨店

  • ショッピングモールは、景気低迷やeコマースの台頭の中にあって、引き続き増加している。
  • バンコク: バンコクでは土地供給に限りがあるが、ショッピングモールエリア(百貨店を含む)は依然として拡大している。
  1. 中心商業地区では、不動産開発業者は複合施設を開発する場合が多い。ショッピングモールを施設の中核に据えて地価の高いエリアをより効率的に使うことが狙いである。特に多くの大型高級ショッピングセンターは海外旅行者を呼び込むことを目的にバンコクのランドマークとして計画・開発された。
  2. バンコク郊外もまた近年大型ショッピングセンターの候補地となっている。 郊外エリアや近隣圏の拡大で生まれるショッピングの需要の取り込みを狙う。
  3. コミュニティモール(小型のショッピングセンター)は、過去10年にわたって、バンコクおよびその近郊で急成長している小売業態である。しかしこの3-4年は新規事業者の運営するコミュニティモールの多くが人気を維持できていない。一部のコミュニティモールはテナントを呼び込むため賃料を下げている。

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注: (4) コミュニティモールと呼ばれる小型施設を含む

 

  • 内陸部: ショッピングモール・百貨店は、内陸部のより奥にまで進出している。主に、バンコクでの土地利用に限界があること、観光客の増加、内陸部の都市化を受けた動きである。
  1. これにより、内陸部での競争激化が予想される。タイショッピングセンター協会(TSCA)によると、ショッピングモール事業拡大の主な候補地は高速鉄道ルート沿い(Nakhon Ratchasima)や、東部経済特区(Chonburi県やRayong県)、人気の高い観光エリア(チェンマイ、プーケット、 ハジャイ、サムイ)である。
  2. 加えて、北部や東北部の第二地方都市圏もまた、最近いくつかのショッピングモールの開業候補地域である。人口の増加、所得の増加、人々のライフスタイルの変化がその要因である。

 

大手ショッピングモール運営会社、例えばCentral Group, The Mall Group, Siam Piwat Group, TCC Group, Siam Retail Development Group, Siam Future Development Groupは、ここ数年消費意欲や購買力が低水準で推移する中、新規店舗の開店と同時に、既存施設の改装も行っている。

ショッピングモール運営会社の主な戦略

  • 店舗網の拡大は、多くのショッピングモール運営会社が優位な市場ポジションの獲得を目指す上で主要な戦略の一つである。
  1. タイ最大手のショッピングモール運営会社であるCentral Groupは、市場ごとにそれぞれ異なるブランドを指定して店舗を拡大し、あらゆるセグメントや地域をカバーすることを目標にしている。

 

2. 一方、The Mall Groupは、バンコクおよび主要な観光エリアでの大型複合施設の開発に力を入れている。

  • 一部のショッピングモールでは、eコマースの台頭を受け、実店舗への来店客数拡大を狙って、顧客に以下の体験型サービスを提供している。
  1. ふれあい体験の場(ジョギング用トラック、ペットが入れるエリア、子供の遊び場など)
  2. コワーキングスペース(無料Wi-Fiが利用できるオープンスペース、充電ステーションなど)
  3. 地域の主要顧客・ターゲット層を呼び込むための特別イベント​​​​​​
  • 店舗でのショッピング促進のためのオンラインマーケティングの予算を拡大している。
  1. ビッグデータ分析を活用して、それぞれの顧客に合わせたマーケティングを行う。各顧客の好みに合わせることで、一般向けの戦略よりも効率よく効果的な宣伝活動を行う。
  2. デジタルマーケティング(スマポアプリやSNSの口コミを使った宣伝)を利用して幅広い顧客基盤に情報を届ける。

 

タイの百貨店は国内企業、具体的にはCentral GroupThe Mall Groupが市場優位にあるしかし、日本企業もタイ企業との提携によりタイ市場への参入を続けている。伊勢丹と東急はタイ市場では老舗であり、近年、高島屋がタイに参入し、今後も店舗を拡大することを計画している。

オンラインショッピングの人気の高まりと外資eコマース企業のタイ市場への参入が、過去数年、百貨店の売上成長ペースの鈍化をもたらしている。このため百貨店は影響の拡大するデジタル化の対応に取り組んでいる。

百貨店の主な戦略

  • オムニチャンネル小売に移行することで、ネットとリアルの境目なく商品の情報収集や購入を可能にするサービスを顧客に提供する。
  1. オンラインショッピングのウェブサイトを開設し、ウェブサイト向けの魅力的なマーケティングを行う。
  2. スマホアプリを採用し、ブランド認知の向上や、それぞれの顧客に合わせたプロモーションよる販売促進を目指す。
  3. オンラインマーケティング、特にSNSを通じた広告活動を増やす。
  4. IT、流通システム、eコマースプラットフォーム、関連設備への投資拡大により、成長するネット通販への対応やオムニチャンネルによる提供サービスの拡充を図る。
  • 携帯型決済デバイスなど店内に支払いのための機器を備える。

 

(後編へ続く)

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