タイランド4.0と近年の投資動向/前編

2019.04.15
  • 業界トピックス
  • タイ

タイランド4.0政策には、付加価値やイノベーションの創出に向けた経済発展を標榜するタイ政府の強い意気込みが感じられる。タイでは、業界再編をもたらす主要な手段として投資が活用されているため、ハイテク技術やイノベーションに関連する事業活動への投資促進を目的とした数々の政策、規制、優遇措置が導入されている。こうした投資優遇措置は近年の投資拡大に貢献しており、今後もタイへの投資に影響を与えるだろう。

 

 タイの投資支出は回復基調

  • 2015年以降、タイの投資支出額は増加している。2015年から2016年にかけては、大規模インフラプロジェクトへの投資が加速したことが投資の回復に貢献した。2017年には、インフラプロジェクトの順調な進捗やタイランド4.0政策の発表を受け、民間部門の投資支出も拡大した。
  • タイの国家経済社会開発委員会(NESDC)は、2019年の投資支出増加率を5%と予想している。複数のインフラプロジェクトの進捗状況が順調で建設段階に移行しつつあることや政府の主要施策の継続性に対する投資信頼度が向上しているので、今後2019年の投資は拡大するだろう。

 手厚い優遇措置でターゲット産業への投資を奨励

  • タイランド4.0政策では、高付加価値のある製品の製造やそうしたサービスの創出をけん引する重要な産業として10業種と4のコア技術を指定している。
  • また、ハイテク技術やイノベーションに関連する事業活動を促すための手厚い投資優遇措置をとっている。
  • 2016年~2018年までのタイ投資委員会(BOI)への投資申請額は、ターゲット産業への投資が全体の大部分(約68%)を占めた。
  • 同期間中、第1次S字カーブの産業(タイで潜在成長力が高いとされる)への投資申請額が全体に占める割合は32.5%だった。この背景には、自動車や電子機器の世界大手が、地理的優位性、熟練労働者、強固で広範なサプライチェーンネットワークを有するタイをアジア地域の生産ハブと位置付け、継続的に投資を行っているということがある。
  • 新S字カーブ産業への投資は、石油化学プロジェクト(特に石油化学プラント、特殊ポリマー関連)への大規模な投資があった2017年と2018年にかけて大きく伸びた。

 国外からタイへの直接投資(FDI)に回復の兆し

  • タイ銀行によると、国外からの直接投資流入額は2014年以降低迷している。これには世界経済の減速、政情不安、GDPに占める家計債務比率の高さ、政府の政策の不透明感などが影響している。
  • タイ投資委員会(BOI)のデータ(製造業および一部サービス業への投資のみが含まれる)によると、2015年、国外からタイへの直接投資(FDI)が大きく減少した。原因としては、BOIの新たな投資方針がわかりにくく、またその税制優遇措置の仕組みが複雑だったことがあげられる。
  • EEC法(経済特区の東部経済回廊:EECの開発に関する法律)の発効や大規模インフラ投資案件が順調な進捗をみせたことで、投資信頼度が回復し、2018年の投資は上向きになった。
  • とはいえ、依然として直接投資流入額は、2015年より前の水準には全く届いていない。これには多くの要因がある。例えば、高度人材不足に対する懸念、および高賃金や労働力不足から一部企業が近隣諸国に製造拠点を移転していることなどである。
  • ハイテク事業に対しては国外からの投資を上手く呼び込めていない。この主な理由は、科学技術人材の不足に対する懸念だとみられる。このため教育セクターは、様々な科学技術プログラムの開発を行ったり、メーカーと連携して高度な人材を育成するための職業統合学習(WIL)プログラムの整備に取り組んだりしている。一方では、高度外国人材を惹きつけようと一連の優遇措置(税制・非税制に関わるを含む)*1が導入されている。

―――――――――――――――――――――

*1 例:研究開発ならびに人材育成活動への投資を対象とした税制優遇措置、外国人専門家の招聘の承認、ターゲット10業種において高度な技術を持つ労働者、専門家、研究者に対する個人所得税の減税など

 

 タイへの直接投資(FDI):

依然として最大投資国は日本だが、中国の投資が増加傾向

  • 2014年は、最大投資国の日本からの投資が急激に落ち込んだことで、国外からの直接投資(FDI)額全体が減少した。
  • 2014年の日本からの投資額の大幅な減少は、前年の金融業界への過剰な資本注入の増大に関連した動きであり、さらには、明確な投資政策の方向性を見定めようと製造業が投資を手控えたことも一因となった。
  • タイへの外国資本全体に占める日本からの直接投資残高は36%(2018年第3四半期末時点)であり、依然として日本はタイにとって最大の投資国である。
  • タイ銀行によると、2018年1月から9月にかけて日本からの直接投資は前年比13%増と好調に推移した。投資先は主に製造(特に自動車、製薬、化学メーカー)、金融、卸売・小売だった。
  • 日本がタイから投資を引き上げる可能性はかなり低いと思われる。日本企業、特に自動車や電気・電子製品、機械の事業者にとって、タイはグローバルにおいてもASEAN域内においても、サプライチェーンの要だと考えられているためである。実際に「タイ・プラス・ワン」戦略のもとでCLM諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー)への移転が進んでいるのは労働集約型の加工業のみである。さらに、中国に進出している日系企業の多くが、米中貿易戦争による高額な関税を回避するために製造拠点をタイに移転している*2
  • 中国の投資者にとって、タイはASEAN域内の主要な投資先である。2011年以降中国からの直接投資(FDI)は急増している。ASEAN中国自由貿易協定(ACFTA)の発効や最近では中国の広域経済圏構想「一帯一路」がこの要因である。
  • 中国からタイへの直接投資残高は、2007年から2017年までの10年間で大幅に増加した(年平均成長率28%)。中国は、国外からの直接投資流入額で二番目に大きい投資国であり、2015年から2017年には国外からの直接投資流入累積額のうち14%*3が中国からのものだった。

―――――――――――――――――――――

*2 出所:2018年2月のみずほ総合研究所の調査に基づく
*3 中国資本の多くが香港を通じて流入しているとみられるため、中国からタイへの直接投資総額はデータ上の数字は実際の数字よりも少ない可能性がある

 

  • タイに投資する中国企業の目的は、ゴム製品や太陽電池などの輸出向け製造拠点として活用すること、および外需を取り込むこと(例:増加する中国人観光客に対応するホテル・レストラン、小売・卸売、不動産事業への投資など)である。
  • 一帯一路構想のもと、国境にまたがる産業チェーンの整備を目指す中国は、近年タイへの投資を多様化させており、今後もこの傾向が続くと思われる。
  • 日中企業間で進んでいる第三国市場協力は、間違いなくタイへの追い風になるだろう。特に東部経済回廊(EEC)地域の開発への取り組みは積極的で、EEC地域は日中企業間の第三国市場協力が対象とする主な地域のひとつとなっている。こうしたことから日中からタイへの投資は今後さらに拡大するものと見込まれる。
  • 米国からの直接投資流入額は2013年以降低迷しており、2017年には直接投資流入額全体に占める割合は6%になった。

  • しかし、投資委員会(BOI)への米国の投資申請額は2018年に大きく増加した。この急激な増加の理由は、投資申請額の9割超を占めるバイオ燃料・バイオ化学関連の中に大規模プロジェクト*4が含まれていたことにある。今後数年間は申請された額の投資が実行されるものと見込まれる。
  • かつてタイに多額の投資を行っていた米国は、石油化学、自動車、電子機器を中心とする多数の企業が大規模な製造拠点や強固なネットワークを築いている。このため、近年の手厚い投資優遇措置によって、既存の投資者や企業を惹きつけやすいものと期待される。

―――――――――――――――――――――

*4 エクソンモービル(Exxon Mobil)のエチレンプラントのプロジェクト。チョンブリ県シーラーチャーの既存の精製所の近隣に建設される予定。推定投資額は約60~80億米ドル(2,000億バーツ)にのぼる。これによってタイは、同社のアジアにおける輸出ハブになる

 

(後編へ続く)

タイランド4.0と近年の投資動向/後編はこちらから

 

  • 海外事業コンサルティングサービス内容
  • セミナー情報