タイでの事業展開に有効なガバナンスのポイント

2019.04.19
  • 経営トピックス
  • タイ

 

近年、海外現地法人に絡む不正事件が増加しています。一般的に、不正の起きる企業は、企業風土・管理体制に問題を抱えているケースが多いと言えます。不正を防止するための仕組み作りについて、現地で実際に起きた事例を踏まえながら記載します。

はじめに

最近の企業不正は、親会社よりは、子会社や関係会社などの海外現地法人で発生するケースが多くなっています。親会社と比較すると事業規模が小さく、また、不正の金額そのものが、相対的又は絶対的に少ないこともあり、それらの不正が外部に開示又は報道されることは多くありません。

しかしながら、世間を騒がす不正事件も、最初は小さな不正行為から始まっています。「どうせ見つからないだろう」「少しくらい大丈夫だ」。そうして始まった不正行為が、時の経過と共に、より大胆なものへと変貌し、発覚した時には、企業の存続すら脅かすレベルに発展していることがあります。図表1は、不正が継続した期間と、その不正によってもたらされた損失額の関係を示しています。不正が発覚するまでの期間が長ければ長い程、不正による損失額は累積的に膨らんでいきます。企業不正も、我々人間の病と同じように、早期発見、予防対策が重要になります。

不正の起きた(起きている)企業は、企業風土・管理体制に問題を抱えているケースが多いと言えます。不正行為を、一個人(従業員)の問題として片付けるではなく、不正を許さない企業風土、不正を発生させない体制作りが重要になります。
 

 

 

▮我が社には関係無い?!

皆様のなかには、「不正防止の重要性は理解できるが、我が社には関係ない」と思われた方もいるかと思います。「そもそも不正なんて話、社内で聞いたことがない」「小規模な事業所なので、不正など起こるはずがない」等、そう思われた理由は様々かと思います。

お時間のある方は、ぜひ、図表2「現地法人の管理体制に関するチェックシート」の該当箇所に、チェックを入れてみてください。
チェック項目は、弊社が現地(タイ)でコンサルティングを行うなかで、実際に耳にした不正行為、不正を招く温床となった管理体制の不備を纏めたものです。チェック項目のなかには、「現地ベンダーとの間に、利益相反関係はない」といった項目があります。「恐らく大丈夫だが、そう言われると自信がない」と思われた場合は、「不明」欄にチェックを入れてください。「はい」「いいえ」の数自体、もちろん重要ですが、そこに一喜一憂するのではなく、「不明」欄にチェックの入った項目もしっかり確認する必要があります。出来ていること、出来ていないことが分かっている項目よりも、分からない、知らない項目の方が、不正管理上は盲点になります。

 

図表3、図表4は、不正の類型別発生状況、企業規模と不正の関係を示したものです。この調査は、125カ国を対象に実施したものであり、タイに限定した調査ではありませんが、現地(タイ)でコンサルティングを行う我々の感覚に近い結果と言えます。

図表3によれば、不正件数としては、資産の横領・着服が全体の9割近くを占めています(複合的な不正が含まれており、合計値は100%を超えます)。一方、粉飾決算は件数こそ少ないものの、企業に与える損失額は最も大きくなっています。
また、図表4を見れば、企業規模(従業員数)に関係なく不正は起きていることが分かります。意外に思われるかもしれませんが、中堅・中小企業(従業員100名以下)の方が、不正による損失額は大きい結果となっています。「うちには関係ない話だよね」と言い切れない実情が、お分かり頂けたのではないでしょうか。
 

 

不正防止に向けた体制作り

それでは、本稿のテーマである「不正防止に向けた体制作り」に話を移したいと思います。ここでのポイントは、下記3点です。


Ⅰ 重点管理業務を決める
Ⅱ 不正防止に向けた仕組みを整備する
Ⅲ 「モニタリング」を怠らない

 

Ⅰ 重点管理業務を決める
不正防止は、確かに重要な経営課題ですが、全ての業務を管理対象とすることは、現実的ではありません。全従業員の言動を逐一監視することができれば、不正防止に大きな効果を発揮するかもしれません。しかし、それでは膨大な費用・労力が必要になります。特に、管理人材等の経営資源の乏しい海外現法においては、費用対効果を意識した対策でなければ、実現可能性の伴わないものになってしまいます。

重点管理業務を決定する際のポイントは、不正が発生しやすい場所、不正発生時の影響が大きい場所を対象とすることです。不正が発生しやすい場所、不正発生時の影響が大きい場所とは、モノとカネが動く場所です。モノとカネが動く場所を、重点的・優先的に管理する必要があります。一般的に、モノとカネが動く場所は、購買、経理(支払)、資産管理、販売等の業務になります。モノとカネの動きは、最終的に記帳され、会計数値に反映されます。

所属する業界、各企業の置かれた状況によって、重点管理すべき業務は異なるはずです。今一度、ビジネスフロー(商流)、社内の業務フローを書き出してみて、重要な経営資源(モノとカネ)がどう動いているのか、整理する必要があるかもしれません。

 

Ⅱ 不正防止に向けた仕組みを整備する
重点管理業務を決定した後、次に取り組むべき事項は、不正防止に向けた仕組みを整備することです。仕組みを整備する際のポイントは、下記5点です。

 

①相互牽制機能を働かせる
組織運営においては、各担当者の権限・責任を明確にし、各担当者が権限・責任の範囲において、適切に業務を遂行していくことが基本になります。その際、職務を複数の者の間で、適切に分担・分離することが重要になります。例えば、取引の承認(資材発注の承認)、資産の管理(資材の検収・在庫管理)、取引の記録(会計記帳)をそれぞれ別の者に担当させることで、それぞれの担当者間で適切に相互牽制を働かせることが可能となります。

不正が起きる背景として、特定の担当者に複数の相反する権限が集中してしまうことがあります。承認・現物管理・記帳の3つの手続きを行う担当者を分けて、相互牽制機能を効かせることが重要になります。人手不足等の制約があり、職務を別の担当者に任せることが難しい(兼任が避けられない)場合には、各企業の置かれた状況を踏まえ、特に重要と考えられる業務だけでも、人材採用・配置転換等によって、相互牽制が働く仕組みを整える必要があります。

 

②資産台帳(在庫、固定資産、備品)、名簿類は適切に管理する
固定資産台帳が更新されていない、備品台帳に記された備品がどこにあるのか分からない、といった経験はないでしょうか。不正防止に向けた仕組み作りの2つ目のポイントは、資産台帳、名簿類を適切に管理することです。

まず第一に、資産台帳、名簿類は、実態が記されている必要があります。何年も更新されていない固定資産台帳、廃棄済みの資材が計上されたままになっている在庫表、直近の従業員の入社・退職が反映されていない従業員名簿を見掛けることがあります。しかし、この様な管理状況では、備品が盗まれたり、退職したはずの従業員に給与が支払われ続けていたとしても、それを見逃してしまう可能性があります。

次に、資産台帳、名簿類は一定のルールに基づいて作成する必要があります。保管場所が記載されていない備品台帳では、何らかの不正(物品の窃盗等)が起きた際、その異変に気付けない可能性があります。また、重要な管理書類は、現地語以外(日本語、少なくとも英語)で作成することも重要です。日本人マネジメントの理解できない言語で書かれていては、いくら実態が記され、一定のルールに基づいて作成されていたとしても、異変や兆候に気付くことは極めて難しいと言えます。資産台帳、名簿類を適切に管理し、定期的に会計帳簿と照合・確認することで、不正の予防・早期発見に繋がります。

 

③業務の属人化を防ぐ
同一部署に長年配属させた結果、その従業員にしか分からない(説明のできない)業務はないでしょうか。特定の従業員にしか分からない管理データはないでしょうか。

業務効率の観点から言えば、特定の従業員に業務を集約する方が、理に適っているかもしれません。しかし、不正防止の観点からは、定期的に従業員を入れ替え、業務の属人化を防ぐことが重要になります。

長年同じ部署にいる従業員は頼りになりますし、当該従業員が辞めるリスクを取ってまで、配置転換をすることは抵抗があります。しかしながら、日系企業におけるトラブルや不正の大きな原因の一つが、タイ人幹部や長年勤務しているタイ人従業員に起因するものです。特定の従業員に過度に依存することは、業務の属人化、ブラックボックス化を招き、それが不正の温床になります。また、業務の引継ぎができない結果、組織の持続性に影響を及ぼす可能性もあります。

様々な理由で、配置転換に踏み切れないケースもあるかもしれません。その場合には、業務の見える化(標準化)を推進する必要があります。業務内容を棚卸する(業務記述書の作成)、業務の流れを図式化する(業務フロー図の作成)ことで、業務が周囲から見えるようになり、業務の属人化、ブラックボックス化を防ぐ効果が期待できます。

 

④例外処理を認めない
典型的な不正事例の一つに製品の横流しがあります。こういった不正は必ず例外処理をされた文書が見つかります。承認ルートが異なっていたり、手書き伝票であったりと手口は様々ですが、文書管理体制を改めただけで、不正がぴたりと止まるケースもあります。

承認者が忙しい(不在が多い)、顧客が急いでいる等、やむを得ない事情で始まった代理承認、事後承認等の例外処理が、気が付けば常態化してしまうことがあります。本来、権限を有していないはずの人物(タイ人幹部)が、事実上の決裁権者になってしまう事態は、絶対に避けなければなりません。承認・決裁はルール通りに運用し、例外処理は認めないという毅然とした姿勢が重要です。

 

⑤性悪説で考える
性悪説で考える、聞こえが悪い言葉かもしれません。しかし、性悪説に立ち、不正が起きる前提で、不正を未然に防止するための対策を打っておくことは、結果的に、組織・従業員を守ることに繋がります。不正を行った従業員には、厳罰が課されることになります。また、不正を行った本人以外の従業員にとっても、お互い疑心暗鬼になり、職場環境が悪化する恐れがあります。

情報システムへのアクセス制限は、既に多くの企業が取り入れていますが、従業員を採用する際のReference Check(「身元照会」「経歴照会」の意味で使われ、企業が中途採用の際、信用調査の一環として、前職への在籍期間や実績、人物像などを第三者に照会を行うこと)はどこまで実施しているでしょうか。

ガードマン・監視カメラを、重要設備・資産の周りに配置し、死角のない状態を作っているでしょうか。数百名規模の工場の事例で言えば、警備会社の活用、監視カメラの導入により、管理体制を強化することが可能です。管理者が不在となる夜間には、警備会社が不正防止の肝となります。これらの施策は、従業員を信用しないから行うのでなく、組織・従業員を守るために行うものです。

 

Ⅲ 「モニタリング」を怠らない
前項では、不正防止に向けた仕組みについて記載しました。しかし、新しい制度・仕組みを導入したら、それで終わりではありません。むしろ、そこからが始まりです。

 

図表5をご覧ください。この表は、企業不正の発覚経路を示したものです。不正の発覚経路の第1位は「内部告発・内部通報」、第2位は「内部監査」、第3位は「マネジメントレビュー」となっています。どれだけ精緻に不正防止の制度・仕組みを作っても、それだけで、不正を完全に抑制することは出来ません。制度・仕組み作りと同じくらい重要なのが、制度・仕組みが正しく運用されているかモニタリングすること、及び、制度・仕組みが守られていない場合に、声が上がる仕組みを構築することです。特に、内部通報制度の導入は、企業規模の大小問わず、検討すべき重要なテーマとなります。制度導入に際しては、内閣府が示した『公益通報者保護法に関する民間事業者向けガイドライン』が参考になります。以下、重要と思われる事項を抜粋します。

 

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『公益通報者保護法に関する民間事業者向けガイドライン(抜粋)』
1.事業者内での通報処理の仕組みの整備
・全社的かつ一貫した仕組みとしての整備
・通報窓口、相談窓口の整備(外部を含めた窓口機能の検討)
・秘密保持の徹底
・受付担当者、調査担当者の利益相反関係の排除
2. 通報の受付
・通報者に対する通報受領の通知
・個人情報の保護
3. 調査の実施
・調査と個人情報の保護
・調査状況、結果などの通報者への通知
4. 是正措置の実施
・是正措置、再発防止策、処分の徹底と関係機関等への報告
・是正措置等の通報者への通知
5. 通報者に対する解雇、不利益取扱いの禁止
・解雇、不利益取扱いの禁止

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さいごに

本稿のテーマは、「不正防止に向けた体制作り」です。しかし、体制だけ作っても、マネジメント(日本人)の覚悟が伴わなければ「仏作って魂入れず」です。

マネジメントとして重要なことは、社内外の現場、特に人の動きを観察することです。毎日現場に出て人の動きを観察し、微細な変化に気付くことがトラブルを未然に防ぐことに繋がります。日々人の動きを観察することで、各個人の顔色や勤務態度、出社人数など従業員の様子、整理整頓、在庫・スクラップの状況など、現場の雰囲気の変化に気付き、問題が大きくなる前に事前に手を打つことが可能となります。また、日本での経歴・キャリアが工場責任者であったとしても、現地でマネジメント職に携わる以上、PLのみでなく、BSやキャッシュフローといった会計知識も備えていなければ、微細な変化や異変に気付くことはできません。

企業不正を完全に無くすことは難しいかもしれませんが、出来ることからしっかり取り組む姿勢が重要になります。

 

 

執筆:YAMADA Consulting & Spire (Thailand) Co., Ltd.
   YC Capital Co., Ltd.

   (山田コンサルティンググループ株式会社 タイ現地法人)

 

 

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