タイ進出後、日系企業が直面する課題

2019.05.16
  • 経営トピックス
  • タイ

近年、タイ進出済みの日系企業の中でも優勝劣敗が進んでいます。日系企業がタイで事業展開していくための成功のポイントはどこにあるのでしょうか。売上が伸び悩んでいる企業の共通課題と課題解決のポイントをまとめました。

はじめに

タイへ進出する日系企業数は2018年も尚、増加しています。
JETROのデータによると、2010年前後は、タイの安い労働力を求めた製造業が中心に進出してきましたが、タイの経済発展を背景に、ここ数年はタイを消費市場として捉え進出する企業が増加し、競争環境も激しくなっています。また、タイのみならずタイの周辺国を攻略するためにタイに進出する企業も増えています。 経済の中心はバンコクですが、チェンマイ、コンケーン等の地方へも広がりつつあることから、タイの潜在的なマーケットはまだまだ存在すると言えます。業種によりますが、市場の成長とともに企業の競争環境は激しくなり優勝劣敗が進んでいます。例えば外食産業においては、タイ全体では日本食レストランの店舗数が伸びているものの、バンコクにおいては2017年にはじめて前年を下回りました。その内訳を見てみると、個店経営をしていた店舗数が減り、チェーン展開している企業の店舗数が伸びています。これらから、戦略性を持ってビジネス展開することが鍵であると考えられます。今後はより一層タイ及び各業界の将来性を見据えた戦略的な取り組み・盤石な経営体制が求められていることは言うまでもありません。
 

売上が伸び悩んでいる企業の共通課題

タイにおける競争環境は年々激しくなっており、各業界とも環境変化が見て取れます。特に労働市場を目的としてタイに進出した製造業においては、日本の親会社の生産拠点として進出した企業や、取引先の進出とともに進出した企業が、親会社の受注減少や取引先の縮小・撤退に伴い、自力で現地企業から注文を取らなければならない状況となりました。新たに自力で売上を獲得しようにも、現地の競合企業が存在する環境下において、自社ブランドも浸透しておらず、現地スタッフも含めた営業体制もすぐに作ることができていないために、売上確保することができずに撤退に追い込まれている企業が散見されます。冒頭触れたように、タイをマーケットとして進出している企業は業界を問わず増加していますが、その一方で売上が伸び悩んでいる企業も多く存在しています。

次に売上が伸び悩んでいる企業の共通課題について解説していきます。
 

 

①日本製品・日本モデルを持っていけば売れるという誤認、準備不足
例えば食品業界において、日本の食品は「ジャパンブランド」「ジャパンプレミアム」としてタイにも浸透しています。それを理由に日本製品を持っていけば売れるという認識のもと、輸出を中心にタイで販売されている日本の商品は多くありますが、ほとんど売上を伸ばすことができていないのが実情ではないでしょうか。どういった顧客をターゲットとするのか、そのターゲットはどんなニーズを持っているのか、どのチャネルを通して販売していくのか、どうやって商品を訴求していくのか、どういったプレーヤーとパートナーシップを組んでいくのかなど、最終的に商品を購入する消費者の理解のみならず、業界構造の理解もしないまま、日本製品は魅力がある、タイの中間所得者層が増えている、といった情報のみで自社製品が売れると判断し、現地のディストリビューターに任せっぱなしにしている日系企業を多くみます。自社の製品を過信し、タイの環境を楽観的に認識し、販売は販売会社や現地企業にお任せというスタンスでは売れないのは明らかです。

例えば「和牛」や「日本酒」等を扱っている企業の事例を申し上げると、タイローカル産品との価格差が大きく開いています。タイ国産の牛肉はスーパーマーケットで150バーツ(約500円)/100g程度で購入できますが、日本産の和牛になるとその3倍から5倍の小売価格になります。また、バンコク市内のスーパーでは、多数の地域から牛肉が輸入されており、日本産和牛と競争することになります。日本酒についても同様で、バンコク市内のスーパーでは常時10から20種類ほどの日本酒が売られています。こちらも、缶ビールが40バーツ(約130円前後)で購入できるのに比べ、日本酒は四合瓶(720ml)で1,000バーツ(約3,200円)超しますので、中間層が日常的に購入できる金額ではありません。日本国内においては競合製品との価格差に留意してプライシングを行っている企業が、海外では競合製品の数倍の価格を前提として市場参入している企業が数多くいる事実があります。自社が日本企業であるということが、アジアにおけるブランディングの際に有効であることは否定しませんが、より現地を理解し、自社の特性や戦略を明確に認識していないと、多様性の高いタイで有効な対応を取ることはできないでしょう。

②現地マネジメントを現地ローカルスタッフへ丸投げ
販売活動、生産活動、社内マネジメント、オペレーション、人材採用や育成・評価など、現地スタッフが運営・経営に関与する体制を整備していく必要があります。現地でのビジネスにおいては現地語・現地人の方がスムーズなケースも多くあります。また、現地化した商品を展開するにも現地スタッフの感覚が必要になることは言うまでもありません。日本人が本社から代わる代わるマネジメントとしてやってくるのではなく、現地スタッフを幹部にしていくことが持続的な企業となるためにも重要であると思います。しかし、立ち上げの段階で仕組みも何も整備されていない状況から、核となるメンバーを採用したあとは、現地スタッフに業務を丸投げしているケースにおいては、日本人マネジメントが業務実態を理解していない場合があります。確かにタイでは各種管理資料や対外的なやりとりは英語ではなくタイ語やタイ文字が多いため、日本人マネジメントがすべて理解するのは難しいということも理解できます。立ち上げから組織を作り仕組みを整備していく段階から、ほとんどの業務を現地スタッフに丸投げして業務プロセスや業務オペレーションが理解できていない状況では、正しく経営判断をすることができません。更に、新たな戦略を浸透させ様々な手を打ちたくとも、業務やオペレーションを変える具体的な指示ができずスタッフの行動も変えることができないと改善には繋がりません。

 

③本社の無関心と現地情報の共有不足
海外現地法人に対して日本本社の関与が薄い企業はとても多いと感じます。日系企業における海外事業がうまく進まないケースとして、日本本社における意思決定者の考えや狙いと現地マネジメントの認識がそもそも擦りあっておらず、事業が推進しないことがよくあります。現地だけで対処できない課題は多くあるため、日本本社のリソースを使って事業推進する必要があるものの、日本本社における海外現地法人の認識が薄く、噂が広がり、現地をただ知らない・知ろうとしないことによって精神的距離も離れ、孤立している現地法人、現地マネジメントの声をよく聞きます。日本本社が無関心となっていることから、会社本来の力が発揮できなくなっている典型例です。

これは本社側の問題のみならず、現地側の問題の場合もあります。そもそも現地における現地マーケットや現場への向き合い方が不十分であるため、本社に的確かつ具体的な状況を伝えることができていないというケースもあります。自社がどういう戦い方をするべきか、ということが、現地マネジメント、また現地スタッフの腹に落ちていないことが、成長に二の足を踏んでおり、対応力の遅さに繋がっているケースもあります。
現地のトップの仕事は、現地で起きている問題を正確に理解することです。そして課題を正確に捉え、解決策を考え、使命感を持って実行するという“当たり前”を海外でも実践することが基本です。現地にいることは現地を把握していることにはならないとあえて言っておきたいと思います。


 

課題解決のポイント

売上が伸び悩んでいる企業の共通課題として、上記3点を述べました。その課題解決のポイントは「現地の外部環境を正確に理解すること」「現地パートナーと適切なパートナーシップを組むこと」「軸を持って現地をマネジメントすること」にあると考えます。
以下詳細を解説します。
 

①現地の外部環境を正確に理解すること
当たり前ですが、タイでのビジネス展開に際し、自社の事業環境を理解することが必要です。知っている人からの情報や知人の紹介だから大丈夫ということだけで事業を進めて痛い目を見ている日系企業も多く存在しています。日本と異なり正確な統計情報や各種マーケット情報が気軽に取得できるわけではなく、またそういった情報が英語で公開されているものも少なく、タイ語タイ文字の情報のみの場合も多いことから、インターネットでとることができる情報も限られてしまいます。そのため専門のリサーチ会社や公的機関を使ってでも、現地の事業構造を理解することから始めることが必要だと感じます。日本と同じ業界構造であるとは限りません。また主要プレーヤーや競合となる企業も日本とは異なります。購買を意思決定するプレーヤーが異なったり、顧客の購買決定要因が異なったりすることもよくあります。加えて、業界情報をリサーチ会社や公的機関に調査依頼するだけでなく、自分の目で現地を見ることが必要です。そして現地企業と話し、現地のニーズを自分なりに掴むことが重要であると思います。

②現地パートナーと適切なパートナーシップを組むこと
(1)現地パートナーの意義
日系企業がタイでの事業展開を図る際、現地企業とパートナーシップを組むことが近年必要になってきています。これは、日系企業にとってのタイ市場が、製造拠点から消費市場に変わってきたことにも関連しています。過去、タイに進出する日系企業の多くは製造業であり、「タイで製造・日本/欧米諸国へ輸出」というビジネスモデルを採用していました。この場合のタイ現地法人に期待する役割は、コスト効率と品質を両立した製造機能であり、日系企業の製造ノウハウが生かされていました。一方、消費市場としてタイを捉えると、「タイ国民/企業に受け入れられる商品の開発」・「タイ国民/企業と事業を行っていく上での商慣習の理解」・「タイ国内の流通プロセスに乗せるためのチャネル」等、タイに根ざした機能・ノウハウが必要となってきます。それらを日本企業が単独で作り上げるためには、数年、或いは数十年という年月が必要となります。そこで、チャネル・嗜好/商慣習の理解というものまで含む、「ビジネスインフラの獲得」を目指し、タイ企業と、業務提携や資本提携等の手順を採用する企業が増えています。通常、こういった提携にはいくつかの段階があります。


・独占条項を含まない業務提携契約
・独占条項を含む業務提携契約
( ライセンス契約、包括代理店契約等)
・合弁会社の設立
・タイ企業に対する出資、100%の買収


どの手法を採用するかは、相手側企業の意向と、日系企業側のタイ市場に対する戦略によって検討されます。業務提携等の資本関係を必要としないパートナーシップは、一般的に、相互にリスクを負わず・コストを下げる効果がありますが、効果も限定的になりがちです。一方で、合弁会社の設立・出資/買収等の資本関係を伴うパートナーシップは、タイ企業のビジネスインフラを活用できますが、リスクも増大します。各手法のメリット・デメリットは下表に記載します。


 

図表3にあるように出資(合弁会社設立・完全子会社)を伴う進出の場合、タイ側パートナーのビジネスインフラを自社拠点として獲得できる一方、各種リスクが発生します。それらについて事前の十分な検討が必要となります。リスクのうち、特に意思決定における制約やガバナンス上の制約が問題になります。ガバナンスでは、「株主としてのコントロール」・「役員としてのコントロール」・「契約(株主間協定等)上のコントロール」を考えなければなりません。

資本関係を伴うパートナーシップは、自社でどこまでの意思決定・事業オペレーションができるかを事前に吟味しておくことが重要です。例えば、25%超の株式を現地パートナーが保有する場合は、株主総会の特別決議を自社単独で決議することができず、増資・減資・解散決議等を採択することができなくなります。事前に「自社でどこまでの意思決定が可能なのか」という観点でリスクを確認し、交渉を行い、法律上の文書に残しておくことが重要です。「株主としてのコントロール」・「役員としてのコントロール」が困難な場合、商流をコントロールすることによって、対象会社をコントロールする手段も検討できます。例えば、対象会社の事業が日系親会社から提供されるサービス(商品・製品・サービス・ノウハウ・知財)をコアとして成り立っている場合は、支配権を保有していない場合においても、合弁会社単体ではビジネスが成り立たないので、実質的なコントロールが可能となります。

 

(2)現地パートナー選定のための必要事項
a.事前リサーチの重要性
現地パートナーとの提携にあたり失敗する事例の多くは、事前の詳細検討の不備に起因すると言われています。特に買収を検討する際は、「両社でシナジーが発揮できること」「自社とパートナーで補完し合うもの」を検討することが必要です。つまり相乗効果、相補効果がどれだけあるかを事前に十分検討する必要があります。それにより本当に有用/不可欠なパートナーシップであるのかどうかを判断することができます。また、財務上のリスクの洗い出し・ステイクホルダーからの風評の理解も必要不可欠です。

b.事業計画策定の重要性
現地パートナーと共同で事業計画を検討することも有効です。日系企業同士が日本国内で合併・合弁事業を行う場合においても、統合後の問題が発生することは枚挙に暇がありません。ましてや外国企業同士が統合する場合においては、様々な問題が発生することは明白です。それらの影響をできる限り極小化するためにも事前に「統合後の事業計画」を議論しておくことが重要です。単純なメリットを取り合うのではなく、ともに目指す姿を設定し、足し算ではなく掛け算で考えていくことが重要です。更に中長期の事業計画を話し合うことにより、副次的に現れる効果もあります。それは、将来の計画を議論する中で、その会社の「理念」・「X年後の数値目標」・「成し遂げたい状態」を明確にできることです。その内容を共有できる相手であることが統合の成否を分ける重要な要素であると考えます。

 

(3)現地パートナーとの上手な付き合い方
現地パートナーとの付き合い方は様々あると思います。過去に現地パートナーとの合弁事業に失敗した企業は、相手を信頼せず契約で縛りドライな関係を保つのが重要だと言います。その失敗の多くは、自分たちがあまり関与せずに現地パートナーに任せきりにしており、当初の想定とは異なり、問題が起きてから気づくケースが多いように感じます。お互いのメリットだけをとるような小手先でのビジネスの関係ではうまくいくことはありません。現地パートナーとビジョンを共有し、お互いの言いたいことを言える関係を作ることが必要であると思います。現地パートナーとは当然異なる企業風土であり、人種も違えば、考え方も違います。だからこそ高い志を持って、ビジョンを共有し、あえて異なるもの同士が一緒に考えて、事業を進めていくことで、当初より予期もしなかったイノベーションが生まれ、本当の相乗効果が生まれると考えます。

 

③軸を持って現地をマネジメントすること
現地トップの仕事とは、現地で起きている問題を正確に理解することであると先ほども述べました。現地にいることで、現地が正確に見えているとは限らないため、現地の課題を正確に捉え、解決策を考え、実行するという当たり前を愚直に実践することが必要です。そして一つ一つの解決策は現地にあります。現地スタッフとともに、時間を過ごし理解し合うことが必要であると思います。そして、特に日系企業の場合は、現地トップが日本にある本社の意思決定機関や日本に置かれている多くの部署や機能を動かしていかなければなりません。現地のリーダーが日本を巻き込んでいくには、現地人のリーダー候補は日本の現場をしっかり理解すべきです。現地人材を即戦力として採用しその直後に現地へ派遣することも多いですが、特に現地トップを任せる人材であれば、日本での経験も重要であると思います。自社がお客様に提供する本質的な価値とは何なのか、自社らしさとはどんなことかを理解していないと、最終的にお客様に納得いただけず、価値を感じてもらうことはできません。加えて現地マーケットに向き合いつつも、現地メンバーに対して自社の理念や提供価値の理解を共有することが重要です。多様性と向き合っていくにあたって、自社の大切にしている基準がなければ経営判断することはできません。変えてはならないことを決め、あとはどっぷりと現地の理解とともに現地に徹底的に合わせていくことが必要なのではないかと思います。


単一社会での経験の長い日系企業が海外でも成長していくには、現地の正確な理解が必要です。それはただただ現地にいて働くことではなく、自社並びに自分自身の基準を持ちながらも現地にどっぷり浸かることだと思います。

 

 

 

執筆:山田コンサルティンググループ株式会社

   YAMADA Consulting & Spire (Thailand) Co., Ltd.
   YC Capital Co., Ltd.

   (山田コンサルティンググループ株式会社 タイ現地法人)

 

 

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