タイ事業の見極め並びに撤退

2019.05.17
  • 経営トピックス
  • タイ

タイでの撤退、事業売却に関するポイントを解説致します。撤退実行には時間を要すること、資金負担が発生すること、国内事業を含む他事業に影響が出ることなどを踏まえ、事前の熟考並びに集中的な対応が必要です。

近年、タイからの撤退を検討する企業が増加しています。事情は様々でありますが、最も多い事例は、「タイでの競争環境の激化に伴う不採算化」です。不採算化による撤退の場合、取引先・仕入先等を始めとするステークホルダーへの影響が発生し、日本を含む他国のビジネスにも影響を及ぼします。損益改善の為に撤退を決定したにもかかわらず、撤退の影響によりグループ全体が採算悪化をすると本末転倒です。よって、撤退を実行する場合においては、事前・事後の対処をしっかりと行うことにより、悪い影響を最小限に留めることが最も重要になります。

本項では、事前・事後を含めた撤退実務の留意点の解説を行います。
 

事前検討ステージ

撤退を実行することには多大な労力、コストが必要です。進出の検討以上の負担が発生すると言っても過言ではありません。また、撤退に伴って他国のビジネスに思いもよらない影響を及ぼすこともあります。それらを踏まえ、事前に各種検討を実行することが重要です。

 

(1)改善可能性の検討⇒ 撤退要否の決定
撤退を決定する前に、不採算化した事業が改善可能なのかを検討するプロセスを経ることが一般的です。改善可能性があるのかどうか、改善可能性がある場合、誰がいつまでに何をやるのかといったことを検討します。改善可能性が小さい、或いは、求める採算レベルまで到達することができない場合、撤退の意思決定に至ることになります。
尚、副次的ではありますが、それらのプロセスを経ることにより、駐在員を含む現地法人メンバーの納得感の醸成にも繋がります。本社主導で撤退を決定する場合、現場の想いと乖離が生まれ、人材の流出や労働裁判等のトラブルが発生するケースが多くあります。人材流出を防ぐためにも、現場とのコミュニケーションを取ることは有用です。

 

(2)ステークホルダーへの影響検討 ⇒撤退スキーム検討
得意先、仕入先を中心とするステークホルダーへの影響を検討します。特に、日本国内を始めとする他ビジネスで関係を持っている法人に対する影響を検討することが重要です。例えば、自動車部品メーカーにおいては、納入先・サプライヤーへの影響を検討します。関係の深い会社への引き継ぎができるのであれば、それらの段取りも有用です。なお、得意先・仕入先とは、取引基本契約等の契約条件が定まっていることが多いため、撤退に伴う違約金・在庫引取等のペナルティが発生するかどうかも事前検討が必要です。
その他、レンタル工場、OA機器のリース等、事業インフラ関係の契約状況も確認を行います。ここで、事業上関係を持つプレイヤーへの影響を検討しておくことで、国内を含む他事業へのネガティブなインパクトの軽減に繋がります。

 

(3) 撤退シミュレーション 及び スケジュール策定
いざ撤退が決まったら、タイムラインを引き、todoを設定し、そのtodoに則り、財務三表の計画を作ります。資金が不足する場合は、国内からの送金(増資或いは貸付金)もスケジュールに組み込みます。詳細は後述しますが、タイからの撤退の際は、資産超過状態にすることによる通常清算の手続きになりますので、資金管理・貸借対照表計画の作成は重要です。製造業の撤退の場合、生産計画の策定、損益計画の策定を行うことは一般的ですが、資金計画・貸借対照表計画は盲点になりやすいため、もれなく作成しましょう。
 

撤退実務ステージ

事前検討により、どういったタイミングで何を行うのかが明確になりました。本項では、実際に撤退を実行していくためのプロセスを説明します。

 

(1)ステークホルダー説明 → 仕入・販売活動停止
まずはじめに、仕入先・取引先・従業員等に、撤退の見通しであることを説明します。関連の強い会社に事業内容を引き継ぐ場合、それらのストラクチャーについての合意形成も行います。ここで最も留意が必要なことは、風評被害です。特に、日本国内他で事業を行っている場合、それらの関連事業に影響を及ぼさないように丁寧に説明することが重要です。また、従業員に説明した後は、退職社員も出てくる懸念が有るため、生産計画や販売計画を踏まえ、従業員説明のタイミングを設定することが必要です。

 

(2)従業員解雇、契約関係クリアランス、B/Sクリアランス、許認可対応
一般的にタイで撤退を実現するためには、意思決定から2年~3年必要といわれています。ボトルネックになるのは、①債務超過状態で撤退する手段が少ないため、債務超過を解消するために日本からの増資または貸付金等の債権放棄についての税務を含めた検討が必要となること、②許認可等のキャンセルに時間を要すること、③労働者の処遇(要するに退職処理)に時間を要すること、④税務調査に時間を要することです。よって、私どもがアドバイスをする際には、以下の三点を強調しています。

 A:意思決定から2~3年程度は必要だという覚悟をもって行うべき
 B:意思決定から法務手続きを実行する前に、
   「貸借対照表のクリアランス(すなわち、現預金と純資産だけが残っている状態を作ること)」、
   「許認可関係のクリアランス」、「従業員の解雇」等を行うこと
 C:上記のAとBをしっかりとシミュレーションしておくこと

これらのことを踏まえ、従業員解雇、契約関係のクリアランス、 B/Sのクリアランス、許認可対応を行います。事前検討ステージでしっかりとしたシミュレーションを行っておくことで、実際の処理の時間を短縮することが出来ます。
従業員については、一給与期間前の解雇通告を行い、法定の解雇保証金を支払い、残存有給休暇を買い取り、解雇します。労務トラブルに発展するケースも散見されますので、解雇保証金の支払いや伝達タイミング等、十分留意するようにしてください。

B/Sのクリアランスとは、資産を売却・除去し、負債を弁済していくことを指します。損金性に疑義のある資産(架空在庫、低廉販売した在庫等)がある場合、顧問税理士等に確認の上、慎重に対応を行います。
許認可対応については、所有する許認可(BOIライセンスを含む)を確認の上、どのような手続きが必要なのかを、関係省庁・関係機関に確認します。行政指導・罰金等の対象になることがありますので、許認可の手続きは慎重に行う必要があります。

 

(3)税務クリアランス
正式な税務調査を待つ前に、税務上の必要対応事項を行います。例えば、BOIで関税の免税を受けている棚卸資産・機械等がある場合、関税の支払い手続きを行う必要があります。また、税務上疑義がある資産がある場合、それらの対処も行います。

 

(4)法務手続き、税務手続き
日本本社で一般的に考えている「撤退手続き」はこちらの項目になります。税務調査が数年間に渡ることも有るため、日本本社が考えている以上の期間が必要になります。一般的な撤退プロセスを図表1に記載します。


 

法務手続きについては、臨時株主総会の特別決議によって法人の解散決議を行い、清算手続きを開始しますが、清算手続き開始時点の決算書に対する会計監査が必要です。監査完了後に税務調査が開始されますので、予め監査法人に清算時期などを相談しておくことをお勧めいたします。

最後に清算事務手続きに際してコメントします。一般的に日系企業の撤退にあたっては清算開始と共に駐在員が帰任となるため、清算人を誰にするのか、経理書類の保管をどうするのか、税務調査の対応は誰がするのか、といった実務面でのすり合わせが重要となります。

税務調査対応において大切となるのは、どの書類がどこにあるかを把握していることですので、会計業務を外注されている場合は、まずは会計事務所に相談されることをお勧めします。社内で会計業務を行っている場合は、監査法人に打診をしたり、現在の経理担当者を一定期間業務委託契約のような形で雇用して、業務を委託したりするなどの対応が必要となります。

臨時株主総会の解散決議をしてから法人登記抹消までは、弊社事例では最長2年以上かかったこともあります。清算手続きによる撤退には時間とコストが掛かるため、タイ進出時の検討が重要であるとともに、その他の撤退手法(事業売却)の活用も比較検討が必要となります。
 

事後対応ステージ

清算が完了した後は、ステークホルダーに対する説明を行います。関係が継続する仕入先・販売先はもちろんのこと、株主等、事業運営上関係を持つ必要がある関係者に対しても、説明をする必要があります。その際、日本本社も含めたグループ人員で、きちんと対応者を決めることが重要です。撤退実務に携わると、非日常業務に追われ続けることが想定されるため、担当者サイドでは抜け漏れが発生することがあります。「撤退をしたことを聞いていない」・「誰も説明に来なかった」といった、抜け漏れに伴うネガティブな影響を避けるためにも、本社が一体となった網羅的な対応を行うことが重要です。

また、清算の進行と同時に、商務省より「廃業手続きに入った旨の書面」等の書類が受領できますので、それらの公式書類受領のタイミングで、日本本社を始めとする関係会社の貸倒損失・売却損失等が計上されることとなります。

 

撤退の事前準備から、撤退手続き、事後処理までを一通り確認しました。前述した通り、撤退は想定している以上の負荷がかかります。また、想定できないような影響が出ることもあります。しっかりと事前検討を行い、影響を最小化する方法を検討されることをお勧めいたします。
 

 

 

執筆:山田コンサルティンググループ株式会社

   YAMADA Consulting & Spire (Thailand) Co., Ltd.
   YC Capital Co., Ltd.

   (山田コンサルティンググループ株式会社 タイ現地法人)

 

 

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