海外展開の検討プロセス

2020.01.07
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 近年ベトナム進出の問い合わせが急増しています。各社様々な目的と狙いがありますが、本稿ではこれからベトナム及びASEANマーケットへ進出するにあたって検討されている方に向けて、海外進出の検討プロセスについてご紹介します。

 

進出検討にあたって
 既にグローバル展開をしている企業、生産拠点も含めて2-3カ国に展開している企業、これから海外への展開を予定している企業、読者の皆様は様々なステージにいらっしゃることと思います。本稿では、ベトナムも含めた海外展開を考えるにあたって、進出を検討する上でのプロセスを記載します。海外展開先を消費市場と捉えることは、要するに、どの国で、誰に対して、何を、どうやって売るか、を考えることに他なりません。商材やサービスにもよりますが、日本で行っているビジネスモデルがそっくりそのまま他国でも通用するとは限らず、国の経済状況も、ビジネス環境も、業界の商慣習も、顧客の消費行動も異なることを前提に、進出を検討していくことが重要だと思います。現地の生活の実態を踏まえ、様々な切り口でセグメンテーションをしたマーケティング戦略、現地の消費者へ届けるためのチャネル戦略などを検討することが重要です。

 

ベトナム市場への日系企業の進出状況
 ベトナム市場への日系企業の進出数は直近の平成29年で1,816社(前年比+7.6%)(海外在留邦人数調査統計)まで増加しています。ASEAN展開を図る日系企業にとって、ベトナムの豊富な労働人口(若くて質が高い)、低賃金での雇用獲得、今後の成長見込みは大きな魅力です。足元のコンサルティングの現場においても、ASEANの中でも特にベトナムへ進出したいという問い合わせは非常に多く、生産拠点として、ASEANマーケットを睨んだ周辺国へのハブ拠点として、技能実習生の受け皿とした人材活用として、中国からの移管拠点として等、様々な理由を背景とした進出に関するご相談を頂いています。

 

海外展開の検討プロセスの全体像
 海外展開検討時のプロセスを図表2に示しました。
 

各プロセスにおけるポイント
各プロセスで実施することと検討ポイントを以下に示します。
 

①海外事業における目標設定

 国内マーケットの成熟・縮小が見込まれる中、海外マーケットを狙いに進出を望む企業が増えている状況で、「とりあえず~」「長い目で見て~」といったフレーズをよく耳にします。これでは海外で力強く事業展開し、将来の事業の柱にしていくことは難しいのではないでしょうか。いつまでに、いくら作りたいか、明確な目標のセットとトップのコミットメントなくして、海外における事業展開、海外マーケットの売上獲得に繋がることはありません。長期的で壮大な目標を描き、5年後、3年後のあるべき姿を考え、そのために足元の取り組むべき事項を考えることはもちろん重要ですし、我々コンサルティングの現場でもこの手法でプロジェクトを進めることが多いです。しかし一方で、日本とは全く異なる市場で、手探りながらも徹底的に行動し、仮説検証を繰り返し高速回転させる、戦略変更も厭わず事業の転換をする、海外展開も一種の新規ビジネスであることを考えれば、試行錯誤の中でスモールウィンを獲得していくことも重要となります。長期的な視点と一度作った戦略を何度も壊し推進してく短期的な視点、この両方がなければ、海外での成功は難しいといえます。これらの実現には担当者の実力のみならず、組織としての環境の整備が必要です。つまり、失敗を恐れず、成功するまでやり続けられる、または成功するまで実行者のサポートをし続けられる環境が求められ、それにはトップの後ろ盾がなければ、結果の出にくい海外市場でビジネスを続けることはできないのではないかと思います。すぐに利益を得られないからやめた、収益貢献している既存事業から潰されてきた海外事業(≒新規事業)も多く見てきました。


 海外マーケットで成功している日系企業の経営者の方にインタビューしたところ、
A社社長:グローバル戦略推進において、グローバルビジネス強化の重要性を理解してもらうために、社員との積極的なコミュニケーションを大切にしている。その上で、グローバルビジネスの成功を積み重ねていけば理解・協力をさらに得ることができ、全社を挙げてグローバル市場に挑む体制ができあがる。」

B社副社長:海外へ再挑戦するにあたり、『進出チームと社長自身の直接的で、深い関与』を重要視した。社長は進出チームからの報告だけではなく、実際に現地へ足を運びコミットしている状態でなければ、プロジェクトは想定通り進まない。」ということを述べていました。一例ではありますが、海外事業を展開する経営陣の覚悟と動き方には学ぶところがあります。

 

②進出有望国の選定

 「この製品を売るには、このビジネスをするには、どの国に出て行くのが良いのでしょうか」「ASEANを次の市場として展開したいのですが、ASEANのどの国からエントリーしたら良いでしょうか」こういったお悩みを多く頂くことがあります。既に取引のある国、馴染みのある国、自社の業種にもよりますが、ASEAN10カ国のうちどこに出ていけば良いのかは、各国のマクロ環境や自社がビジネスする業界環境にもよりますし、①で述べた「いつまでに」「どの規模のビジネスをしたいか」によっても展開国は異なります。エントリーする有望国の選定には、下表にあるように、ASEANにおけるマクロ環境の情報を押さえることも重要です。
 

 マクロ環境のみならず、対象とする業界の市場規模や成長性を押さえるとともに、その国における業界構造の理解も必要となります。業界構造とはその業界がもっている特徴のことであり、それは業界ごとに異なり、特に国によっても異なります。業界構造は、戦略や競争のルールに大きく影響するため、有望国へ新規参入する際には必ず押さえておかなければならないポイントです。


 例えば、石油化学業界のサプライチェーンは、原料(ナフサや天然ガス)から中間原料の基礎化学製品(エチレン・エタノール・ポリエチレン等)を生産し、一次製品となる中間製品(樹脂、各種塗料・プラスチック等)などを製造し、さらにそれを使って最終製品が作られ、様々な産業における中間材として供給されます。日本ではこの全てのサプライチェーンが自国内で繋がっているものの、ベトナムにおいては中間材料を製造する企業が少ないので、原料を輸出し、樹脂等へ加工された中間製品を輸入しなければなりません。このようにベトナムにおいては石油化学業界のみならずサプライチェーンが繋がっていない業界も多く存在するため、参入の際にはその業界全体及び調達ルートからその先の販売ルートも含めて調査し、ベトナム参入後の自社の位置づけを明らかにした上で戦略検討していく必要があります。

 

③進出先でのビジネスモデルの仮説検証

 次に②で決めた有望国でビジネス展開するにあたってビジネスモデルを検討します。具体的には、その国・エリアの市場性や競合の調査、プレーヤー・消費者へのインタビュー調査を経て外部環境を把握し、それらを踏まえて自社の強みを最大限に活かした事業仮説の構築と検討を行います。クリステンセンらによると、ビジネスモデルは「顧客価値の提供(CVP:Customer value proposition)」「利益方程式」「経営資源」「プロセス」という互いに関連し合う4つの要素によって定義されます。進出先でのビジネスモデル構築にも、これらを押さえることが重要です。ターゲットとする顧客が抱える問題に対して、それを解決するにはどんな経営資源(人材、技術、製品、設備、機器、情報、流通チャネル、ブランドなど)が必要なのかを具体的に検討していくことになります。

 特に海外市場においては、ビジネスモデルを自社のみで実現できるのか、現地パートナーと提携して進めていくのか、それには自社のどんな強みが活きるのか、自社の強みをしっかり認識 図表4 自社の本質的な強みしておくことが重要です。自社の強みの理解は異国の地で事業展開していくうえでも、④で述べる現地パートナーと提携し互恵関係を築いていくうえでも欠かせません。図表4の通り、その強みは自社の表面的なものではなく、価値提供できている本質的な強みがあるはずであり、環境が変化してきても、今の自社が変化対応でき存在している大きな理由のひとつだと思います。その自社の本質的な強みを改めて把握し、それを作り出している自社の組織能力を棚卸しして、ビジネスモデルの構築へとあてはめてみてください。

④現地パートナー探索

現地パートナー探索時のポイント
 進出国を消費市場として捉え進出するならば、現地のことをよく理解しているローカルパートナーと提携していくことが重要になります。では現地のローカルパートナーとはどのような過程を経て提携まで至るのでしょうか。海外市場における自社の戦略を実現できるプレーヤーと組み、そういった企業を自ら探すことが必要であり、出物(M&Aブティックからの持込み)を都度検討するのは自社の戦略実現になかなか繋がることは難しいうえ時間もかかります。対して、自ら対象企業を探すことは一見遠回りなようで、実は自社の戦略実現には近道と言えます。具体的に現地パートナーの探索は、その対象国・業界において現地パートナーとなりうる企業のリスト化(ロングリスティング)を行った後、自社の目的に合致する企業へ絞り込む(ショートリスティング)ことが一般的です。その上で絞り込んだ企業への打診を行います。現地パートナーの探索においては、以下2点が重要です。

a)現地パートナーに求める機能の明確化
 現地パートナーに求める機能をできる限り明確にすることが自社の目的に適した候補先を特定するために役立ちます。販売機能を求めるのであれば、自社が必要とするチャネルとそれによってリーチできるエンドユーザーの属性などをイメージしておくとよいと思います。また、ショートリスティングの過程で現地パートナー候補の属する経営環境を分析し、業界内のポジショニングを把握することによって、自社がアプローチする候補先の優先順位付けが可能となります

 

b)自社が現地パートナーに提供できる価値(自社の強み)の明確化
 現地パートナーとwin-winの関係を築けなければ事業の成功は生まれません。自社が現地パートナーの機能を利用するためには、自社の提供できる価値が現地パートナーにとって魅力的である必要があります。ブランド力、独自の技術、まだ現地では流通していない新しいサービスなど様々ありますが、自社が提供できる価値を生かすことで現地パートナーの事業が成長する姿を具体的に描くことにより、候補先へのアプローチの結果に大きな差が出ます。現地パートナー候補となる企業が競争力のある企業であればあるほど、日系企業に限らず、他国の企業からも協業のアプローチがあることが予想されます。その中で自社は選ぶ立場である一方、選ばれる立場でもあることを認識した上で、アプローチの仕方を考えることが重要です。

 

現地パートナー面談時のポイント
 次に現地パートナー候補企業と接触し、面談するにあたって、どのようなことに気をつければ良いのでしょうか。共にビジネスすることを提案に行くため、表敬訪問して様子をお伺いするといった日本的アプローチはなるべく避けた方がいいでしょう。相手もこちら側の提案を見極めているので、状況次第ではその場での決断を求められることもあります。検討事項を持ち帰るといったスピード感では遅く、仮にパートナー候補企業に別の中国系企業や韓国系企業がアプローチしている場合には、意思決定のスピードで負けてしまうかもしれません。相手の要望を見極め、自社が実現したいことを明確に伝え、相手のメリットも踏まえた上で、交渉することが必要になります。そういった状況からも、こちら側も意思決定者が面談に行き、できれば実行予定の責任者も同席させ、その場での対応がしっかりできるように十分準備していくことをお勧めします。実行フェーズに入る前から意思決定者と実行者の熱や思いを共有しておくことは、実行スピードが遅くなるリスクを軽減することにつながるのです。

 

客観情報の重要性
 上記で述べてきたように、自社のビジネスに適した現地パートナー候補を選定することは非常に重要ですが、客観情報も取りながら評価していくことも忘れてはなりません。「財務的な信用評価」と「業界での評判」を用いて、対象企業を客観的に評価することができます。

a)財務的な信用評価
 日本国内の場合でも、新たな相手先と取引を始める際には信用情報を入手し、取引先の評価を行う企業が多いと思いますが、海外では国内以上にその重要性が高まります。ベトナム企業の財務情報を入手する際の難易度は企業によって様々で、入手できたとしてもそれが正しいかどうかは十分な検証が必要です。ASEANにおいては、財務情報が一般に公開されている国、信用調査機関等から入手可能な国、外部からは入手困難である国があります。また、その企業が正確な財務情報を公開していないことも多くあるため注意が必要です。

 

b)業界での評判
 現地パートナーを評価するために、定量的な財務情報を入手するだけでは不十分な場合もあります。ベトナムにおいては上述の通り、その財務情報が正確ではないこともあるため、対象企業の定性的な情報も併せて入手する必要があります。特にJVパートナーなど資本関係を作り深い関係構築を想定する場合は、リスクを低減するためにも重要です。例えば、技術供与を前提とするJV事業であれば、その企業固有の技術が盗まれる懸念であったり、販売を前提とするのであれば現金回収の懸念などがあります。現地パートナーと組む目的や形態によって様々ではありますが、外部には公にならない、その対象会社が存在する業界内の人間だけが知りうる情報を入手し、その対象会社が自社の現地パートナーに適しているかを評価してください。
 

 

⑤事業立ち上げ

 進出国での事業立ち上げには、上記で述べてきたパートナー企業の買収、パートナー企業との合弁会社の設立、業務提携や資本提携、自社での法人設立など、様々な形態による方法がありますが、どの場合においても能力の高いエース級人材の投入が重要です。海外事業が自社の既存のビジネスモデルに近く、既存の組織との関わりや連携が多い場合には、既存事業を担うエース級の人材を送る必要がありますが、新規事業に近いものであるならば、新規事業の経験に長けた人材の投入が必要です。新規事業を立ち上げ、推進していくには様々な難所があります。ここで多くは触れませんが、経験学習に基づき、新規事業の推進を何度も経験した人材こそが異国の地におけるビジネスの成功には不可欠です。

 

おわりに
 ここでは海外進出における検討プロセスについて記載しました。上記のプロセスだけが正解ではありませんし、すべてのプロセスを漏れなく踏んだからといって必ずしも成功する確証もありません。しかし、海外展開をするには「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」が大事です。公平に冷静に勝算を分析することの大切さや事前準備の必要性を理解し、実行に備えることだと思います。
 

 

 

執筆:山田コンサルティンググループ株式会社

 

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