[新型コロナウィルス肺炎感染について]
上海の労働に関する特別な取扱い①

2020.02.03
  • 制度トピックス
  • 中国(Greater China)

 

 新型コロナウィルスによる肺炎感染の拡大に伴い、国及び各地方政府は様々な措置を打ち出し、国が春節休暇を2月2日まで延長し、多くの省(直轄市、自治区)では企業の営業再開日をさらに延期しました(上海の場合、現時点2月9日24時まで)。それに伴い労働分野において発生する検討課題を解消するために国及び地方から様々な通知及び解釈が公布されました。

 

 本稿は、盈科律師事務所上海オフィスが国及び上海市の通知、上海市人力資源及び社会保障局による解釈及びその他の労働関連法規に基づいて纏めたQ&Aの第一弾になります。ご一読のうえ、ご参考にして頂ければ幸いです。なお、以下の事項についてもご留意下さい。

 

(1)本稿は、上海市における取扱いに関する取り纏めであり、その他の省(直轄市、自治区)について、所在地の地方法令及び現地行政部門の解釈をご参照下さい。

(2)本稿は、1月31日まで公布された通知及び上海市人力資源及び社会保障局による解釈に基づいて作成したものであり、状況の変化又は新通知等の公布により、本稿の内容を修正しなければならない可能性があります。

(3)本稿は、あくまでご参考のため作成されたものであり、各企業様において実際にアクションを起こされる前に、関係する行政部門及び弁護士等の専門家にご確認お願い致します。本稿を参考にして起こされたアクションによって貴社に損害をもたらした場合、弊事務所及び当職らは責任を負いかねますので、予めご了承下さい。

 

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Q1、国から春節休暇を2月2日まで延長するとの通知が公布されていますが、上海市からは、2月9日まで営業再開してはならないとの通知が公布されています。国の規定は上海市の規定より法的効力が高いと思われますので、上海市の規定は法的強制力を有するのでしょうか。

 

【回答1】国務院弁公庁は1月26日に「春節休暇の延長に関する通知」(国弁発明電〔2020〕1号、中国語:国务院办公厅关于延长2020年春节假期的通知)を公布し、その第1条では、春節休暇を2月2日まで延長される旨が定められています。一方、上海市政府は1月27日に「上海市における企業の営業再開及び学校の新学期開始の延期に関する通知」(中国語:上海市人民政府关于延迟本市企业复工和学校开学的通知、以下「上海市の延期通知」といいます。)を公布しております。その第1条では、上海において、都市運営に必要な水道、ガス、電力及び通信等の業界、疫病の防止及び撲滅に必要な医療機器、医薬品、保護用品(中国語:防护品。マスク、消毒液等が考えられます。)の生産及び販売等の業界、市民生活に必要なスーパーマーケット、食品生産及び供給等の業界並びにその他国民生活にかかわる重要な関係企業を除き、各企業は2月9日24時まで営業再開してはならない旨が定められています。

 

 当該二つの通知には齟齬があるように見えますが、上海市の延期通知において、同通知の法的根拠を「中華人民共和国伝染病防止治療法」(中国語:中人民共和国染病防治法、以下「伝染病防治法」といいます。)及び「中華人民共和国突発事件応対法」(中国語:中人民共和国突事件应对法、以下「突発事件応対法」といいます。)と明記しています。例えば、伝染病防治法第42条では、伝染病が発生し、流行したとき、県レベルの政府は、上級政府の承認を受け、その地域において休業及び休校の措置を講じることができる旨を定めています。上海市は直轄市(省レベル)であるため、上海市の延期通知は、法的根拠に基づいたものであり、法的強制力を有するといえます。 

 

 なお、上海市の延期通知に違反した場合、又は、これによって伝染病の防止、撲滅に影響を与えた場合、それぞれ民事賠償責任(伝染病防治法第77条、突発事件応対法第67条)、営業停止、営業許可証の取消(暫定的若しくは永久的)、5万元以上20万元以下の過料の併科、公安局による行政処罰(突発事件応対法第64条及び第66条)、刑事責任(突発事件応対法第68条)を追及される可能性があります。

 

 上記に鑑み、上海市の延期通知は法的強制力を有し、それに違反した場合の罰則は重いものであるため、回答2で言及されている状況を除き、遵守しなければならないと考えます。

 

Q2、2月9日24時を経過しなければ営業再開してはならないのでしょうか。

 

【回答2】以下の状況のいずれかに該当する場合、企業が2月9日24時という期限を遵守しなくても問題ありません。

 

1、上海の延期通知で明記されている延期除外業界

回答1でも説明しましたが、上海の延期通知第1条によれば、都市運営に必要な水道、ガス、電力及び通信等の業界、疫病の防止及び撲滅に必要な医療機器、医薬品、防衛品(中国語:防品。マスク、消毒液等が考えられます。)の生産及び販売等の業界、市民生活に必要なスーパーマーケット、食品生産及び供給等の業界並びにその他国民生活にかかわる重要な関係企業は2月9日24時という期限の制限を受けないとのことです。

 

2、上海市の行政部門に認められたその他の業界

上海市人力資源及び社会保障局の解釈(そのホームページ<http://rsj.sh.gov.cn/201712333/xwfb/zxdt/01/202001/t20200128_1302972.shtml>をご参照下さい。中国語:关于延迟企复工相关问题,上海市人社局威解答)によれば、物流、家庭サービス、卸売市場、食材市場及びスーパーマーケットは2月3日より営業再開することができ、医療機器、医薬品及び保護用品の生産等、疫病の防止、撲滅に必要な産業チェーン上の企業は早期に営業開始する必要があるとのことです。

 

 かかる解釈は、前述の「その他国民生活にかかわる重要な関係企業」に対するものと考えられます。なお、自社が該当するかしないかが判断できない場合、所管行政部門である上海市商務委員会又は上海市経済及び情報化委員会(中国語:上海市经济和信息化委)にお問い合わせ下さい。

 

3、春節休暇中生産が継続している企業の一部

上海市人力資源及び社会保障局の解釈(のホームページ<http://rsj.sh.gov.cn/201712333/xwfb/zxdt/01/202001/t20200128_1302972.shtml>をご参照下さい。中国語:关于延复工相关问题,上海市人社局威解答)によれば、春節休暇中生産が継続しており、上海に戻る従業員が新たに増加せず、生産が続いても人員流動をもたらさない企業に限って、現状維持で生産を継続させることができるとのことです。ただし、かかる企業は、疫病の防止、撲滅に関する措置を講じる必要があり、また、所在の鎮(街道)の疫病防止・撲滅センター若しくは工業園区に報告しなければなりません。

 

4、特別な許可を受けた企業

上海市人力資源及び社会保障局の解釈(そのホームページ<http://rsj.sh.gov.cn/201712333/xwfb/zxdt/01/202001/t20200128_1302972.shtml>をご参照下さい。中国語:关于延复工相关问题,上海市人社局威解答)によれば、企業が特殊な原因により2月9日24時前に営業再開しなければならない場合、関係する説明資料(上海以外地域出身の従業員の流動情報を含みます。)、疫病応対予備措置及び疫病が発生しないことに関する承諾書等の資料を所在の鎮(街道)の疫病防止・撲滅センター又は工業園区に提出し、審査認可を受けた後営業再開することができ、同時に所在の区の疫病防止・撲滅センターに届出を行わなければならないとのことです。

 

 ただし、現時点において「特殊な原因」や審査認可の基準等が明確にされていないため、個別に所管行政部門に問い合わせる必要がある上、同制度は厳格に運用されているため、簡単には認可されないと思われます。また、同解釈によれば、当該企業において新型肺炎の発症が確認された場合、直ちに生産停止を命じ、かつ関連法令に従って企業の責任を追及するとのことであり、問題が発生した場合の処罰が重いため、企業は当該申請の要否を慎重に検討すべきであると考えます。

 

Q3、営業再開延期期間内において、企業はどのように従業員に賃金を支払うべきでしょうか。

 

【回答3】上海市人力资源及び社会保障局が1月27日に公布した「新型コロナウィルスによる肺炎感染の疫病状況への応対のために支持保障措置の実施に関する通知」(中国語:关于应对新型冠状病毒感染肺炎疫情施支持保障措施的通知)第3条第2項では、企業は、疫病状況による影響を受け、従業員に出勤延期を要求した場合(実際、政府から営業再開延期の要請を受けていますが)、一賃金支払期内において(通常1ヶ月)、労働契約で約定された基準に従って賃金を支払わなければならず、一賃金支払期を超過した場合、上海市の最低月間賃金(2480人民元)を下回らない賃金を支払う必要がある旨を定めています。また、上海市人力資源及び社会保障局の解釈(その公式WECHATアカウントの記事<https://mp.weixin.qq.com/s/LQ4b-X8aTsLXT-7LWzrASA>をご参照下さい。中国語:应对新型冠状病毒感染肺炎疫情人社保障措施细解)においても、同様な趣旨の解釈がなされています。

 

Q4、営業再開延期期間内において、企業は従業員に対して在宅勤務を要求することができますか。要求した場合、従業員の賃金をどのように支払うべきですか。

 

【回答4】上海の延期通知の冒頭において、同通知を公布する目的は、市民の集まりを減少させ、疫病伝染を遮断すること等であると定められています。また、上海市人力資源及び社会保障局の解釈(そのホームページ<http://rsj.sh.gov.cn/201712333/xwfb/zxdt/01/202001/t20200128_1302972.shtml>をご参照下さい。中国語:关于延复工相关问题,上海市人社局威解答)によれば、上海市政府は、市民の集まりを減少させるとの観点から、企業に対して営業再開延期を要求しており、むしろ在宅勤務を提唱するとのことです。そのため、企業は、営業再開延期期間内において、従業員に対して在宅勤務を要求することができると考えます。

 

 休暇の性質から分類すると、今回の春節休暇は法定休暇(1月24日―30日)と追加休暇(1月31日―2月9日)の2種類の休暇があります。この期間内に、従業員が企業の指示に従って業務を行った場合、残業とみなされるべきであると考えます。なお、法定休暇における残業について、従来のとおり、通常賃金の3倍の賃金を支払う必要があります。一方、追加休暇に関して上海市人力資源及び社会保障局の解釈(その公式WECHATアカウントの記事<https://mp.weixin.qq.com/s/LQ4b-X8aTsLXT-7LWzrASA>をご参照下さい。中国語:应对新型冠状病毒感染肺炎疫情人社保障措施解)によれば、かかる期間は休日休暇(いわゆる週末)とみなされ、在宅勤務を含め企業の指示に従って業務を行った場合、企業は後日代替休暇を与えるか、又は通常賃金の2倍の賃金を支払う必要があるとのことです。

 

Q5、自社の従業員が肺炎感染者と診断された場合、同従業員の賃金をどのように支払うべきでしょうか。

 

【回答5】国の人力資源及び社会保障部弁公庁が1月24日に公布した「新型コロナウィルスによる肺炎感染の疫病状況の防止・撲滅期間における労働関係の適切な処理に関する通知」(人社庁発明電[2020]5号、中国語:人力资源社会保障部关于妥善理新型冠状病毒感染的肺炎疫情防控期间劳动关系问题的通知)第1条では、新型コロナウィルスによる肺炎感染者、感染の疑いのある者又は密接接触者が、その隔離治療期間若しくは医学観察期間において、並びに政府が実施した隔離措置若しくはその他の緊急措置によって、正常な労働が提供できない場合、企業は、当該期間における賃金を支払わなければならない旨を定めています。なお、この場合における賃金の支払い基準に関して上海市人力資源及び社会保障局の解釈(その公式WECHATアカウントの記事<https://mp.weixin.qq.com/s/LQ4b-X8aTsLXT-7LWzrASA>をご参照下さい。中国語:应对新型冠状病毒感染肺炎疫情人社保障措施解)によれば、企業は、正常出勤の場合の賃金を支払わなければならないとのことです。

 

 また、国の人力資源及び社会保障部弁公庁の通知第1条によれば、前述の場合、企業は労働契約法第40条又は第41条に基づいて当該従業員との労働契約を解除してはなりません。また、当該期間内に労働契約が満了したときは、それぞれ医療期間、医学観察期間若しくは隔離期間の満了時又は政府が実施した隔離措置若しくはその他の緊急措置の終了時まで労働契約を延長しなければならないとのことです。

 

Q6、営業再開延期期間を、年次有給休暇として取扱っても大丈夫でしょうか。

 

【回答6】前記引用した国及び上海市の通知並びに上海労働部門の解釈の趣旨に鑑みると、営業再開延期期間は休日休暇期間とみなされており、年次有給休暇として取り扱ってはならないと考えます。

 

Q7、自社の賃金支払い日は毎月の5日ですが、現況では2月5日までに支払うことができません。これは法律違反になるのでしょうか。

 

【回答7】前記引用した国及び上海市の通知並びに上海労働部門の解釈において、賃金支払い日に関する規定又は解釈は確認できませんでしたが、「賃金支払暫定規定」(中国語:工支付)第18条では、理由なく従業員に対する賃金支払いに遅延が発生した場合、賠償を命じることができる旨が定められています。同条を逆に解釈すると、理由がある場合に賃金を遅れて支払っても問題ないと解釈できます。なお、今回の支払い遅延は政府指示によって発生したものであるため、営業再開延期期間満了後、企業が速やかに賃金を支払う場合には法律違反には該当しないと思料致します。

 

Q8、労務委託者(定年退職者)、派遣労働者の取り扱いについて

 

【回答8】前記引用した国及び上海市の通知並びに上海労働部門の解釈においては労務委託者(定年退職者)、派遣労働者の取り扱いに関する規定又は解釈は確認できませんでした。一般論として、労務委託者も派遣労働者も企業と労働関係を有しないため、かかる人員を使用する企業において、前記引用した国及び上海市の通知並びに上海労働部門の解釈はかかる人員に適用できません。企業は、労務委託契約及び派遣契約等に基づいて、不可抗力の適用等を含め、契約解除の可能性及びその際の取扱いに関して、ご検討いただく必要があると考えます。

 

 

 

執筆:北京盈科(上海)律師事務所

 

▼本稿内容等に関するお問い合わせ先

山田コンサルティンググループ(株) 事業戦略部 平井 global-support@yamada-cg.co.jp

 

 

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