[新型コロナウィルス肺炎感染について]中国現地法人の経営回復に向けたステップ

2020.02.19
  • 経営トピックス
  • 中国(Greater China)

はじめに

新型コロナウィルス感染による肺炎の蔓延により、春節休暇の延長、都市・地区の移動制限や封鎖、隔離措置による従業員の出社停止などの異常事態が発生し、企業の事業再開に大きな影響及ぼしています。感染拡大のスピードは低下しているように見えるものの、正常な操業体制やサプライチェーンの状態に戻るには、相応の時間を要するとも言われており、一部の企業では中国以外の生産拠点への移管も始まっています。中国進出企業の93%の日系企業が収益悪化を免れないとのアンケート結果もあり、サプライチェーンの復旧が遅れるほど、企業に与える影響は甚大です。

自社は操業再開ができる状況にあったとしても、仕入先の操業再開がされないため仕入部品が供給されず、満足のいく操業体制になっていない状況も散見されます。中国交通運輸省では、農村から都市への出稼ぎ労働者のうち、2月15日時点で2億2千万人が戻っていないと推計しており、この影響が特に工場の操業再開の足かせになっているようです。
しかしその一方で、操業できないにもかかわらず人件費や賃料などの固定費の発生に加え、販売先からの資金回収が滞るなど、資金繰りが厳しい状況に陥る企業も増加すると予想されます。中国現地法人に資金調達が必要な場合、親会社からの借入や増資により資金調達を行う場合が多いですが、手続き開始から入金まで1ヶ月以上の時間を要するため、余裕を持った資金計画の策定が重要です。

感染による混乱については、中国からの仕入に依存度が高い日本企業にも大きな影響を及ぼしますが、本稿では、日本企業が中国に有している中国現地法人の経営回復に向けた対応に絞ってご説明します。賃金支給や休暇手配など労働に関する特別な取り扱いについては、別途弊社ホームページ掲載レポートをご参照ください。
 

経営回復に向けてのステップ

感染による混乱から経営回復に向けたステップは、
   ①余裕を持った資金計画の策定(資金繰りの確保)
   ②業績への影響把握(現状分析)
   ③経営回復プランの策定と現状の見極め
の3段階に分けることができます。
経営回復の見込みが立たない場合には、④抜本策に向けた準備に着手することになります。

まず、感染による混乱後の売上急落期には、資金繰り破たんを食い止める必要があります。資金繰りを確保したのちには、自社に与える影響を把握します。自社工場等の影響、仕入先の被害状況や取引先の状況等の把握がここに該当します。
その後、業績への影響が把握できた段階で、経営回復に向けたプランの策定に入ります。経営回復プランの中には、優遇措置の適用や、借入金の返済プラン等を織り込みます。業績の回復が見込めない、または、復旧にかかる期間の資金負担に耐え切れないなどの場合には、早期に縮小や撤退を選択するのも賢明な選択です。
 

 

 

1.    余裕を持った資金計画の策定(資金繰りの確保)
混乱後、企業として直ちに行うべきことは、資金繰りの確保です。混乱直後は、従業員が出社できない、売上が急減する、原材料を仕入れることができないなど、企業活動は停滞を余儀なくされ、資金繰りが急激に悪化することがあります。

混乱期を乗り切ったとしても、サプライチェーンの回復までには時間がかかる上、取引先の減少(倒産、取引先変更など)も考えられ、しばらくは不透明な状態が継続することから、手元資金の確保は最重要課題です。中国の中小企業の9割近くは、資金繰りが3ヶ月で限界を迎えるとのレポートも出ていますので、しばらくの期間はきめ細かな確認が求められます。
資金繰りを確保するための取り組みは、(1)足元の資金繰りの把握、(2)支出の抑制(繰延べ)、(3)入金の確保の3つです。
 

(1)足元の資金繰りの把握
足元の資金繰りの把握のためには、現在の現預金残高と当月~来月にかけての支払・回収(入金)予定を把握する必要があります。混乱の状況下において、正確な現預金残高の把握が困難なため、おおよその金額を用いらざるをえない場合には、保守的な金額を用います。

資金繰りの発射台となる現預金が固まったら、次は、当月~来月にかけての支払・回収予定の把握を行います。支払予定の把握のポイントは大きく二つあります。一つは毎月必ず発生する支出の把握で、仕入代金や従業員給与の支払、借入金の返済、リース支払いなどがこれに該当します。二つ目は、税金の納付や突発的な支払いなど、必ずしも毎月発生するわけではない支出の把握です。商売の内容によっては、季節性の支払いが発生するケースもあります。

以上の二つのポイントを押さえて資金繰り計画を立てると、資金繰りが厳しくなる時期が見えてきます。今後、復旧に向けて行政の補助金、金融支援等が活発化することが予想されますので、資金繰りの状況を見ながら、各種施策を活用し、経営の安定化を目指してください。
 

(2)支出の抑制(繰延べ)
まず、事業支出の抑制については、仕入先への支払い繰延べや支払いサイトの延長交渉などを行うのが効果的です。一般的に中国企業は支払いを抑制することで資金繰りの安定化を図りますので、中国企業への販売に対し入金が得られなくなることは想定しておく必要があります。相手のあることですので、交渉事にはなりますが、入金の後ろ倒しも考慮した資金繰りの円滑化のため、必要な交渉をご検討下さい。

次に、税金等の支払い繰延べについては、3ヶ月を超えない範囲での納付期限の延期、条件付きの免税や損金算入、繰越欠損金の期間延長など、税制優遇措置が出されています。また、国有企業が経営する開発区などの賃料の減免措置も各地で行われていますので、個別に確認し活用する必要があります。賃料のほかに、企業の固定費として高い割合を占めているものに人件費があげられます。最悪の事態では人件費の支出抑制についても考える必要があります。人件費については、原則、労働契約で約定された基準に従って賃金を支払わなければなりませんが、長期間にわたって正常な操業体制に戻れない場合、従業員の最低賃金や生活費保障水準での支給に抑制することも可能です。支給水準は地域により異なりますので、その都度所在地の労働部門などに確認をしながら進める必要があります。
 

(3)入金の確保
支出を抑制した後は、入ってくるお金を増やす方法を検討しなければなりません。入金を確保する方法は、資金調達と資金回収の大きく2点に分かれます。

1点目は、親会社や現地金融機関等からの調達です。上海市では、上海銀行、浦東発展銀行、上海農商銀行に対して、信用貸しの拡大を促すよう指示が出されています。

上海銀行に、融資対象や条件などについて電話でヒアリングしたところ、以下の内容を確認しました。上海銀行が実施する金融補助政策は二段階あり、現在実施している第一段階は、防疫に貢献しているマスクや医療機器などの医療機器生産企業(重点企業)を対象としています。これは中国財政部からの補助のため、審査基準がかなり厳しく、審査の主管部門は中国人民銀行及び中央政府部門となります。第二段階(開始日程は未定)は、上海市からの補助で、対象企業は新型コロナウィルスの感染拡大に影響を受けた中小企業及び防疫に貢献している生産企業です。詳細は明らかになっていませんが、中小企業に該当している場合、外資系企業でも融資適用は可能となります。中小企業の定義は「关于印发中小企业划型标准规定的通知」で定められており、例えば、製造業は従業員数1,000人以下、または年間売上高4億人民元以下の企業が中小企業の扱いとなります。ただし、金融補助政策の主旨は防疫に活躍している企業を支援することであり、やはり一般の企業が中国で資金調達を行うのは容易ではありません。

中国において日系企業が多く活用している資金調達手法は、親会社からの借入金(以下、「親子ローン」という。)です。中国では親子ローンの実施について、外債借入限度額(投注差管理)が設定され、外債での借入金を管理していますので、外債借入限度額の有無を確認する必要があります。外債借入枠がない企業は、親会社の信用に基づき実施するスタンドバイL/Cの活用や増資も検討する必要があります。スタンドバイL/Cについては、債務弁済が不能となった場合には、外債借入枠を消費してしまうため、留意が必要です。

詳細は、日本国内での取引金融機関へお問い合わせください。親子ローン、増資など日本本社からの資金調達手法については、1ヶ月以上の期間を要するため、短期的な資金繰りの確保については、別の手法を考えなければなりません。


なお、親子ローンや増資を行う際、日本本社でも資金調達が必要になることがあります。中国現地法人に限らず、日本本社自身も売上の減少など、事業への大きな影響を受けている企業もあり、日本政策金融公庫などから新型コロナウィルスの影響を受けた企業に対する金融支援策(本稿末尾「参考資料」参照)が準備されていますので、参考にしてください。

関連会社との取引がある場合には、輸出代金の前受など商事取引により短期的に資金繰りの安定化を図ることも効果的です。親子ローン、増資は最短でも数週間の時間を要するので、まずは商事取引などにより短期的な資金繰り維持に努めることが重要です。


2点目は、取引先からの売上代金の早期回収です。(2)支出の抑制の仕入先との交渉でも触れましたが、この方法も相手があることですので交渉が必要となります。また、直接取引先からの早期の資金回収(売掛金の回収)が困難な場合、ファクタリングを活用する方法も考えられます。

資金繰りの確保については、すぐにできるものと時間のかかるものがありますので、余裕を持った資金計画の策定が非常に重要となります。

 

 

2.    業績への影響把握(現状分析)
資金繰りの確保ができると、次にやることは、業績への影響度合いの把握です。把握のポイントは、自社の商流を整理し、サプライチェーンの全体像から被害の度合いを整理することです(図表2参照)。具体的には、自社の商流を大きく3つ(自社、仕入、販売)に分けて整理します。自社については、商品やサービスを供給するための機能別(部署、施設)に人材、資産、供給能力を把握します。仕入については仕入先別に、販売については販売先別に、被害状況(物流を含む)と自社への影響を把握します。
 

(1)自社の人材、資産への影響
自社の人材、資金・収益への影響を把握するポイントは、①自社従業員の稼働可否と供給能力を把握すること、②毀損した供給能力を回復させるために必要な期間と金額を見積もること、③売上規模にあった適正な人員体制を把握することです。   
この3つのポイントで、自社の商品やサービスを供給するための情報を機能別(部署、施設)に収集し、次のステップに向けた現状の把握を行うことができます。
 

(2)仕入先への影響
自社の影響度合いがある程度把握できると、次は、仕入先の被害状況を確認します。ポイントは、商品を生産するための原材料の供給をどの程度受けられるかを把握し、自社の商品の供給力を見積もることです。
 

(3)販売先への影響
最後に、販売先への影響を確認します。これまでは、自社の商品供給力を見通すことに力点を置いてきました。そのことにより、自社の商品供給力を予め把握した上で、販売先と話すことができます。
販売先で主に確認することは、①販売先の被害状況、②販売先の感染による混乱前後の売上、③混乱後の自社の競合他社と販売先の取引状況の3つです。

操業ができない企業や経営破たんした企業がサプライチェーン上に存在している場合、一度崩れたサプライチェーンを再構築するのは困難です。震災や洪水など局地的な災害と異なり、今回は中国全土で広範囲に影響が及んでいることから、簡単に以前のような経営環境に回復しない恐れがあります。そのため、上記③の自社の競合他社と販売先の取引状況の確認が大切になります。仕入先同様、販売先も1社ごとに影響の確認をします。
 

 

3.    経営回復プランの策定と現状の見極め
資金繰りを確保し、業績への影響を把握した後は、経営回復に向けた計画を策定します。経営回復プランの策定にあたって、まず行うべきことは、影響度合いの数値化(損益見通し・資金繰り見通し)です。数値化により、損益・資金繰りの悪化度合いを把握し、正常化に向けて必要となる施策を整理、経営回復プラン(いつまでに、何をすべきか)を策定して復旧可否の見極めを行います。必要に応じて、復旧度合いによる適正な体制構築(リストラクチャリング)も検討しなくてはなりません。


今回の感染による混乱では、正常な状態に戻るために要する期間が長期化することも予想されます。少ない売上の中、賃料や人件費などの固定費負担をどれほど軽減できるかが復旧のポイントになります。支出の抑制でも触れましたが、長期間にわたって正常な操業体制に戻れない場合、従業員の最低賃金や生活費保障水準での支給を抑制することも一案です。

また、感染者の解雇は行うことができませんが、余剰人員について合意解除などの手法により人員整理を行い、適正な人員体制にする必要もあります。ただし、労働争議や係争に発展するリスクも高く、周辺企業の動向や政府・当局から発表される政策や通知などを確認し、状況を見ながら所轄労働関連当局や開発区など現地当局に相談しながら、人員整理は慎重に進める必要があります。
なお、拠点の移転についても慎重に行わなければ、労働条件の重大変更と見なされ、経済補償金の支給が求められる可能性もあり、リストラクチャリングは専門家を入れて進めることをお勧めします。
業績の回復が困難な場合には、縮小や撤退などの抜本策に着手する必要があります。

 

4.    抜本策に向けた準備
今後、従来のような売上や収入が見込めない、または仕入先の変更などによるコスト増、適正な体制への変更ができないなどの要因により、事業継続が困難だと判断した場合には、抜本策、つまり縮小や撤退を選択し、損失を最小限に抑えることも重要です。

撤退所要資金の算出や現在のバランスシートから、資産については換価性の観点で資産価値を見積もる必要があります(図表3参照)。売上債権については全額回収が可能か否か、回収困難な債権があれば減額調整します。棚卸資産や固定資産については、売却した際の換価性を見積もります。繰延資産には一般的には費用性資産が計上されていることが多く、換価性の観点では価値が低くなる傾向が高いです。

また、負債については、帳簿上の負債以外に支払いが必要となる債務の有無を確認する必要があります。例えば、未納税金などの追徴や従業員整理に伴う経済補償金などの偶発債務を追加で見積もります。実際には、中途解約による違約金や保証金の不還付額の発生、清算期間中の固定費負担額や清算監査報告書の作成費用など、清算決了までの諸費用について不足なく見積もっておかなければならず、仮に資金が不足した場合には、清算が決了できなくなることもありますので、ご留意ください。

図表3の事例では、調整後の純資産が▲125となり、実態では債務超過となっています。この場合、撤退(解散・清算)には資金が125不足していることになり、撤退するためには125の増資などを行う必要があります。増資などの代わりに、親子ローンの借入金がある場合、債務免除を受けることにより負債を減少させ、追加の撤退資金の注入を不要にすることも可能です。
ただし、債務免除を受けた場合、債務免除益による課税が発生するので、留意する必要もあります。中国からの撤退については、機関紙「中国現地法人 撤退の実務」をご参照いただくか、弊社までお問い合わせください。【機関誌「中国現地法人 撤退の実務」
 

 

まとめ

現在も在宅勤務や外出制限が続き、従業員や仕入部品の不足などにより、正常な操業体制に戻せていない企業も多くいらっしゃると思います。一刻も早く従来通りの操業体制に戻すことが喫緊の課題であるとは思いますが、併せて、①余裕を持った資金計画の策定、②業績への影響把握、③経営回復プランの策定と現状の見極めをご検討ください。復旧の道筋が立たず、業績の回復が見込めない場合には、④抜本策(縮小・撤退、拠点の統廃合など)を選択し、グループ全体の損失を最小化する策を考える必要があります。

 

 

参考資料

 

▼本稿内容等に関するお問い合わせ先

山田コンサルティンググループ(株) 事業戦略部 平井 global-support@yamada-cg.co.jp

 

 

【メールマガジンご登録のご案内】

  • 海外事業コンサルティングサービス内容
  • セミナー情報